あたり一面が桜のはなびらに覆われ
すこしずつ、新しいいのちの音が聞こえてくるようになった。

昨年の春にうまれた娘は、すこし伸びた髪の毛を逆立てながら、ぐっすりと 眠りについている。


彼女は、乾燥でほんのわずかに広がったフローリングの隙間を一生懸命覗き込む。

辿々しい足運びで家中を歩き廻り、カーペットのほつれた、細い細い新芽のような

糸屑を引っ張っては喜びの声を上げる。

姿が見えなくなったと思うと、台所の隙間に身体を埋めたり、窓枠に腰掛けて微笑んだりする。

この狭い8畳の家の中でもまったく退屈する様子がない。


言葉や知識を得る前の、この動物的な感覚。

彼女の丸い目に映る世界は、きっとぼくが今まで見たこともない世界に違いない。

そのことを想像すると、また新しい一日がくることに、じんとする。
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